太陽がなければ月は見えず、けれどそれらは空がなければ存在することが叶わない。
「それでも俺らは、月
がいればそれでいいんだ」
蛇は1つの生き物だから。自分があればそれでいい。正直王だのケイルだのはどうでもいいんだ。
迷うことなく答えた己の腕に、テルはうっそりと笑みを浮かべた。
好き、なんだと思うの。消え入りそうな声で言われたその言葉に、ただ頷くことしかできなかった。
だってその後に返せるか? 俺はアンタが好きなんだと思うよ、なんて。
そいつがお前にとって絶対の存在だなんてことは理解してた、つもりだった。お前が俺と会う前にどんな生活をしていたかなんて知らないしわからないし変わらないし、今は俺の側にいるんだからそれでいいって。
けどやっぱり、お前らのそれは間違ってる。歪んでる。世界はもっと広いもんだ。
蛇は家族で俺の家だ、アンタらといることを選んだとしても、俺の居場所はあそこだけだ。そう言って懐かしげに細められる紅い目に叫びたいのを必死に隠して、イオはおどけて笑ってみせた。
「塒がそっちだったとしたら、ここは日向ぼっこ用の石の上にでもしといてくれよ」
そして陽の光を浴びて、少しでも居心地がいいと思ってくれ。
好きな人の好きな人も私は大好きで、好きな人の好きな人の好きな人のこともやっぱり大好きで、どうしたらいいのと相談した相手のことも好きなのだ。
「ねえ、セレンはどうする?」
嫌われてると思い込んで自分のことになると後ろ向きになって、けど他の人に対してはとてもとても優しいイリスの兄代わりは、床でクッションを抱えている自分の頭をベッドの上からゆったり撫でた。
「俺とイリスは違うから、聞いても意味がないだろ?」
「だって」
口を尖らせれば笑われて、そっと手が離れていく。セレンはみんなのことが好きだけど、特別好きな相手はいないのかな。今更だけれどそんな疑問が浮かんで、訊こうかと思って口を閉じる。
セレンは答えてくれないだろう。有耶無耶にしてはぐらかして、きっと自分は何を訊こうとしていたのかも忘れさせられてしまうのだ。
セレンがみんなを好きなようにみんなもセレンを好きなのに、どうしてこの人は気付かないんだろう。
そのことが無性に悲しくなって、イリスは顔をクッションに埋めた。
昔はそれでよかったのに、いつからだろう、この人があいつの話をする度に胸が痛むようになった。己が持ってはならぬ感情だと頭では理解している。そうこれはきっと庇護欲が強すぎるだけだそれだけだ、と己に言い聞かせた。
彼の国であの人の控えめな笑みを見たときに、やはりあれは気のせいだったのだと安堵したというのに、あの人までもがあいつのものと知った時は初めてあいつに負の感情を持ちかけた。
結局あの人は誰のものでもなかったのだけど、己のものにもなりそうにない存在で、この人への気持ちを再確認する羽目になった。
「聞いてるの? ソーレ」
「はい。けれど、たとえどなたがいらしたとしても、イローネの名にかけて最高のお持てなしを」
「わかってるってば!」
ふくれっ面ですら可愛らしいこの人の、せめて避難所が己である今が長く続けばいいと願う。
間違っていると思ったらぶん殴ってでも止める。けどこいつがやりたいというのなら、何を敵に回そうとも自分はこいつの道を作る。
「頼もしいなあ」
そうしろっつったのはお前だろ。その言葉は言わずとも、きっとこいつも覚えてる。
出来心でやった。増えるかもしれない。